教科書の多くは、
一人のマネジメントが監督できる部下の数には限界があるという「
管理限界の法則」を説く。
「だが、そのような法則への信奉はマネジメントをゆがめ、
階層を積み重ねるだけである。
コミュニケーションと協力は妨げられ、
明日のマネジメントの育成は至難となる。
マネジメントの意味さえむしばまれる。」(『マネジメント–-
課題、責任、実践』、1973年)
さて、ドラッカーは、これは何を言わんとしているのだろうか?
「管理限界の法則」について、
ドラッカーは2つの間違いを指摘する。
一つ目は、そもそも「管理限界の法則」
という言葉が正しくないという。問題は、
部下が単純に何人いるかではなく、
互いに協力しなければならない部下の数が何人なのか、
部下の数ではなく関係の数がいくつ必要なのかにあると指摘する。
例えば、
主要部門のトップ全員を部下として密なコミュニケーションを図ら
なければならない社長は、それらの部下の数を8名~
12名内にしなければならないと、ドラッカーは言う(
これは一般的に言われている「管理限界の法則」
での適切な管理人数と等しい)。
「財務部長、製造部長、マーケティング部長たちは、
当の社長を含め全員が毎日協力して働かなければならない。
したがって社長は、たとえ部下の数は少なくとも、
膨大な数の関係を見ていかなければならない。」(『
マネジメント–-課題、責任、実践』)
一方で、例えばシアーズ・ローバック社の地域担当副社長は、
数百人の店長を直接の部下とすることができる。
これは店舗というユニットは、
それぞれが数百店あったとしてそれぞれ独立して運営されており、
すべての店舗が同じ種類の仕事をし、同じ尺度で評価され、
報奨することができるからだ。
このパターンであれば、
地域担当の副社長がマネジメントすることのできる店長の数には、
限度がないとさえいってよい。限度は、地理的な事情で見切れる、
見切れないがあるくらいだ(と、ドラッカーは言う)。
「管理限界の法則」の二つ目の間違いとしては、
マネジメントの人間の扱う主たる関係が下方に向かってのものであ
ると想定されていることだと、ドラッカーは指摘する。
しかし現実には、
あらゆるマネジメントの人間と専門家は上司を持つ(、
しかも組織図とは関係なく二人以上の上司を大概の場合、持つ)。
そして、この上司との上方に向かっての関係が、
部下との下方の関係以上の重要度を持つ。更に重要なこととして、
部下でも上司でもない、
直接的な権限や責任の関係には必ずしもない横に向かっての関係が
、
マネジメントが仕事する能力と仕事そのものに重大な意味を持って
いるのだ。これは、
部門間の協力関係や事業部間の連携などをイメージすることで、
マネジメントにある読者の皆さんも即理解することができるだろう
。
「したがって、今日必要とされているのは、「管理の限界」
というコンセプトの代わりに、「マネジメントの限界」
なるコンセプトを採用することである。」(『マネジメント–-
課題、責任、実践』)
「マネジメントの限界」とは、
ともに働くべき部下の数だけでなく、上との関係の数、
また横との関係の数を含めたもので定義される。「
管理限界の法則」が狭く規定されがちであることと同様、「
マネジメントの限界」も広く規定しすぎるほうがよい。ただし、
横の関係についてだけは、
やや狭く規定することが望ましいとドラッカーは言う。
横の関係だけは、
組織全体の働きや自らの仕事にとって重要なものに限るべき、
だと。
それは、一つには、時間を取られる関係であるからであり、
また関係の数が多すぎるとおざなりになる恐れがあるからだ。
ここでドラッカーの興味深い指摘に、真摯に耳を傾けたい。
「あらゆる組織に共通する弱みが、
組織内の横の関係が十分検討され確立されていないことにある。」
(『マネジメント–-課題、責任、実践』)
くしくも新年度が近づいている。
組織再編や新組織の設置を決めている経営者諸氏も多いかと思う。
新体制スタートの前に、御社の「横の関係性」
についてチェックしてみてはいかがだろうか?
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