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2017.11.27 エグゼクティブ / マネジメント

VOL.100 「知りながら害をなすな」~プロフェッショナルの倫理。

ここ数年、世界的に「格差社会」が大きく注目され、各処で論題・ニュースとなっている。2014年末にトマ・ピケティ教授の著書『21世紀の資本』が発刊され大ブームとなったことも記憶に新しい。

格差社会における論点のひとつが、(特に欧米の)経営者の高額報酬についてだ。マルクス主義の亡霊が21世紀によみがえったかのごとく、「経営者は労働者から得た利益を搾取、独り占めしている」と。

ドラッカーは、マネジメントの立場にある者はすべて、リーダー的地位にあるグループの一員としてプロフェッショナルの倫理、責任の倫理を要求されると説く。

まあ、当然のことだ、と誰しも思うだろう。しかし、一般的に言われている企業倫理や企業人の倫理については、ドラッカーは、それは何ら企業と関係なく、倫理ともほとんど関係ないと一刀両断する。例えば、「企業人たるもの、ごまかしたり、盗んだり、嘘をついたり、贈収賄してはならない」と厳かに言われるが、これは企業人のみならず、誰もが人としてしてはならないことだ。しかも、これらの悪行をする人間は常に存在する(残念ながら)。これは企業の問題ではなく、個人、家庭、学校の道徳観としつけに関わる問題である。そこから敷衍して、清廉潔白な指導者を持つことは素晴らしいことだが、歴史上それが普遍的な資質として広まったことは、これも残念ながら、ない。

現代においてはこれらに更に加えて、企業の地域社会、コミュニティへの参画責任も言われるが、日本やフランスにはそれを倫理的前提活動とする社会的な慣習はない。ボランティア活動の伝統のあるアメリカにおいてであっても、これらの活動に参加しリーダー的役割を果たすことは推奨されても強制されるものではない。コミュニティの活動に参加することは望ましいことだが、企業倫理や社会的責任とは一切関係ない、とドラッカーは強調する。隣人として一市民としての資格における個人の貢献の問題である、仕事の外にあるもの、マネジメントに関わる責任の外にあるものだ、と。

ではドラッカーがいうプロフェッショナルの倫理、責任の倫理とは、何か?

「プロフェッショナルにとっての最大の責任は、2500年前のギリシャの名医ヒポクラテスの誓いの中にはっきり明示されている。「知りながら害をなすな」である。(中略)プロたる者は、自立した存在として政治やイデオロギーの支配に従わないという意味において、私的である。しかしその言動が、依頼人の利害によって制限されているという意味において、公的である。したがって、「知りながら害をなすな」こそ、プロとしての倫理の基本であり、社会的責任の基本である。」(『マネジメント–-課題、責任、実践』、1973年)

ドラッカーは、こう述べた上で、『マネジメント』執筆当時のアメリカにおいて、米国企業のマネジメントは次の3つの問題について「知りながら害をなすな」のルールを犯していると糾弾する。

(1)経営者の超高額報酬
(2)足枷としての諸手当
(3)利益についての説明

(1)については、なんと当時からドラッカーにより指摘されていたのだ。それは緩和されるどころか、冒頭述べた通り、ここへきて更に加速している。

(2)についてはドラッカーは、退職金、ボーナス、ストックオプションなどにより、不当に労働力の流動性が妨げられていると指摘している。このため、「自らが現在の職場において成果をあげていないことを知っている者、すなわち明らかに間違った場所にいる者でさえ、しばしば自らそのことを知りながら、その職場にとどまることになる」(『マネジメント–-課題、責任、実践』)
これについては、幸か不幸か、90年代後半以降、「窓際族」を抱え込んでおくゆとりを許されなくなった日本企業、更には元々実力主義的である米国企業については、「不当な抱え込み」よりも、「可能な法令の範囲で、できるだけリリースする(リストラする)」方向に概ね進んでいると思われる。

(3)については、ドラッカーの企業の存在意義における大きなメッセージ、「企業は、利益の極大化のために活動している訳ではない」という利潤動機説の否定を指している。これについては、後日、詳しくドラッカーの意見を見てみることにする。

「社会が自由な存在であり続けるためにはもちろんのこと、社会が機能するためには、われわれがマネジメントと呼ぶ人たちが、それぞれの組織において私的な存在であり続けなければならない。いかなる形でいかなる者が所有する組織であろうとも、マネジメントたる者は自立した存在でなければならない。しかし、その行動の基準たる倫理においては、公的な存在でなければならない。」(『マネジメント–-課題、責任、実践』)

ドラッカーは、自立性と責任という、マネジメントに特有の「私的な機能と公的な特性との間の緊張関係」にこそ、組織社会に特有の倫理に関わる問題の本質があるという。
「知りながら害をなすな」とは、平凡であり、かつ、決して容易に守れるものではない。だからこそ、この平凡さと自己規律が、「知りながら害をなすな」の原則を、マネジメントの倫理、責任の倫理にとって相応しいものとするのだ、とドラッカーは結論付けている。
まさにドラッカーらしい、シンプルであり骨太なメッセージだと、志高き経営者諸氏は受け止めるに違いない。

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