Xmasイヴの
バーカウンターにて。
作 ・ 井上和幸
ホワイトクリスマスになった。
深々と降る雪の中、俺は仕事帰りに早めの一杯をやれる店を探しにオフィスを出た。
少し落ち着いた大人の雰囲気の街で、美味しい飲食店のジャンルには事欠かない。
しかし、今年の新型コロナ感染は確実にこの街をも痛めつけていた。
幾つかの長年馴染みだった店もこの数ヵ月の間に店を閉じている。
そんな中でも頑張って営業している店に目星をつけて出向いてみるが、
第3波の深刻な状況で、回れど空いている店がない。
残念…
諦めて家飲みに切り替えるかと思ったところで、店内の明かりが漏れる半地下の店を発見。
そこはようやく見つけた、隠れ家のようなバー。
店内はカウンターのマスターと初老の客が1名だけ。
ソーシャルディスタンスで席に着き、ドライジンと軽食を注文。
まずは喉の渇きと小腹を満たそう。
飲み始めると、老人が話しかけてきた。
「今回のバイオテロは流石に酷いことになったな」
--- えっ…? ああ、中国の陰謀説?
「いや、ネメシスじゃ」
--- ネメシス?太陽の隠れた連星というトンデモ科学の?
「ウィルスは全て宇宙からやってきている。
特に地球に仕掛けているのがネメシス系のニビルの奴らじゃ」
ネメシス系の、地球に先行して先端文明を築いている惑星ニビル
(太陽系に対応するように連星のネメシス系にも幾つかの惑星があるらしい)が、
地球文明の趨勢を見つつ遠隔コントロールしているのだという。
古くは恐竜を絶滅させ、人類誕生後も折々、地球の進化がなるべく
正しい方向に向かうよう宇宙から関与してきたのだと老人は言う。
--- なんの義理があってなんですかね。いいお節介じゃないですか。
「ニビル星人にとっても、
ネメシス系と連星をなす太陽系の安定は死活問題なんじゃ。
系のバランスが崩れることは両系の崩壊を意味することを
彼らの高度文明知識は明らかにしておる」
いま、人類は誤った産業、技術利用、自然破壊の道へと加速しており、
地球のガイアが崩壊しかけている。
これを是正するためのウィルスが今回の新型コロナウィルスなのだと。
なるほど確かに、これを契機に適切な人の分散やリモートの活用、循環型経済、
国際協調などへと舵を切ることができれば、人類は良い方向へと進むかもしれない。
それは同時に地球全体のエコシステムを健全な状態に保つことになるのかも。
「彼らは今日を”審判の日”にしているらしい。
彼らのメッセンジャー・預言者(神の言葉を預かる者)が、
イエス・キリストでありサンタクロースなんじゃよ。
ウィルス感染は彼らの<ソフトランディング戦略>だが、
いよいよダメだと判断した時は、隕石という<ハードランディング戦略>を取ってくる。
あるいは救済ならば、そのときは世界中の空からサンタからの〝プレゼント″が降るだろう」
--- えええっ…。
そういえば11月にも地球最接近で隕石がかすめ飛んでいたというニュース、
やってましたね。
NASAなどでもああいうの、事後じゃないと発見できないんですね。
しかし、それにしたって…。
あまりに滑稽すぎる話じゃないか。そもそも誰なんだ、このじいさんは。
「今夜、イエスとサンタがどう動くかじゃ」
なんとも信じがたい老人の話だが、妙にリアリティと説得力がある。
確かに我々が記憶・記録してきた歴史の中で、
今回ほど世界中が一体となって、新型コロナという一つの事象に向き合い
対応に動いたことはない。
であれば我々の対応、取り組みは、ニビル星人にどう評価されたのか?
イエスとサンタが今夜、このイブの夜にその預言を行うならば、
どのようなメッセージ、行動をするのか?
「そろそろ、審判の時間じゃ。ドアを開けて、外を見てごらん」
恐る恐る、バーの入り口のドアを開いてみる。
「あ!」
ホワイトクリスマスになった。
深々と降る雪の中、俺は仕事帰りに早めの一杯をやれる店を探しにオフィスを出た。
少し落ち着いた大人の雰囲気の街で、美味しい飲食店のジャンルには事欠かない。
しかし、今年の新型コロナ感染は確実にこの街をも痛めつけていた。幾つかの長年馴染みだった店もこの数ヵ月の間に店を閉じている。
そんな中でも頑張って営業している店に目星をつけて出向いてみるが、第3波の深刻な状況で、回れど空いている店がない。
残念…諦めて、家飲みに切り替えるかと思ったところで、店内の明かりが漏れる半地下の店を発見。
そこはようやく見つけた、隠れ家のようなバー。店内はカウンターのマスターと初老の客が1名だけ。
ソーシャルディスタンスで席に着き、ドライジンと軽食を注文。まずは喉の渇きと小腹を満たそう。
飲み始めると、老人が話しかけてきた。
「今回のバイオテロは流石に酷いことになったな」
--- えっ…? ああ、中国の陰謀説?
「いや、ネメシスじゃ」
--- ネメシス?太陽の隠れた連星というトンデモ科学の?
「ウィルスは全て宇宙からやってきている。特に地球に仕掛けているのがネメシス系のニビルの奴らじゃ」
ネメシス系の、地球に先行して先端文明を築いている惑星ニビル(太陽系に対応するように連星のネメシス系にも幾つかの惑星があるらしい)が、地球文明の趨勢を見つつ遠隔コントロールしているのだという。
古くは恐竜を絶滅させ、人類誕生後も折々、地球の進化がなるべく正しい方向に向かうよう宇宙から関与してきたのだと老人は言う。
--- なんの義理があってなんですかね。いいお節介じゃないですか。
「ニビル星人にとっても、ネメシス系と連星をなす太陽系の安定は死活問題なんじゃ。系のバランスが崩れることは両系の崩壊を意味することを彼らの高度文明知識は明らかにしておる」
いま、人類は誤った産業、技術利用、自然破壊の道へと加速しており、地球のガイアが崩壊しかけている。
これを是正するためのウィルスが今回の新型コロナウィルスなのだと。
なるほど確かに、これを契機に適切な人の分散やリモートの活用、循環型経済、国際協調などへと舵を切ることができれば、人類は良い方向へと進むかもしれない。
それは同時に地球全体のエコシステムを健全な状態に保つことになるのかも。
「彼らは今日を”審判の日”にしているらしい。彼らのメッセンジャー・預言者(神の言葉を預かる者)が、イエス・キリストでありサンタクロースなんじゃよ。ウィルス感染は彼らの<ソフトランディング戦略>だが、いよいよダメだと判断した時は、隕石という<ハードランディング戦略>を取ってくる。あるいは救済ならば、そのときは世界中の空からサンタからの〝プレゼント″が降るだろう」
--- えええっ…。
そういえば11月にも地球最接近で隕石がかすめ飛んでいたというニュース、やってましたね。NASAなどでもああいうの、事後じゃないと発見できないんですね。しかし、それにしたって…。
あまりに滑稽すぎる話じゃないか。そもそも誰なんだ、このじいさんは。
「今夜、イエスとサンタがどう動くかじゃ」
なんとも信じがたい老人の話だが、妙にリアリティと説得力がある。
確かに我々が記憶・記録してきた歴史の中で、今回ほど世界中が一体となって新型コロナという一つの事象に向き合い対応に動いたことはない。
であれば我々の対応、取り組みは、ニビル星人にどう評価されたのか?イエスとサンタが今夜、このイブの夜にその預言を行うならば、どのようなメッセージ、行動をするのか?
「そろそろ、審判の時間じゃ。ドアを開けて、外を見てごらん」
恐る恐る、バーの入り口のドアを開いてみる。
「あ!」