キョウコ22
作 ・ 井上和幸
「オッケー、ケンジ。今日の天気は?」
「オハヨウ、うううん、、、曇ってるね、午後から、雨、かなぁ。。」
「なによー、ハッキリしないわねーー。
ちゃんと気象情報局のデータベースにアクセスして確認した?」
ケンジはどうも頼りない。
OSの性能はさほど悪いとは思わないのだけど、
どうも学習速度が上がらないというか、
同じ指示を何度か繰り返さないと、なかなかレスポンスの精度が
あがらない。
困っちゃうんだよなー。
「ねえ、今日、なんの日か、分かってるわよね?」
「あ、今日はクリスマスだ」
「正確には、クリスマス・イブ、ね。
ということは?今日のイベント・タスクはどうなってる?」
「あ、ええと…、今日は…オフィス用にプレゼント5コと、
家族用に3つ、取引先用に10コ、購入、、、、」
「えー、それ、昨日までに買っておいてって、
アタシ、ちゃんと言ったわよねー!
今日、それぞれに渡さなきゃならないXmasプレゼント、
これから会社なのに、いつ買うのよー!!」
おいおい、タスクの時系列管理も全くできてない!
なんてこった、、、これじゃ、また、お母さんに怒られちゃう(涙)。
「ご、ごめん、、、
昨日は年末追い込み業務がまったく手が付けられてなくて
すっかり帰りに買い出しするの、忘れてたよぉ」
「全く、もう、怒られるの、アタシなんだからね〜」
ガチャ。
そのとき、部屋のドアが開き、お母さんが顔を出した。
「ケンジ、会社支度できたの?もう8時よ、遅刻するわよ!」
「ごめん、急ぐよー」
これでもケンジは、25才。いいオトナの社会人男子だ。
「キョウコ22に支度アシストしてもらってたんじゃないの?
早くしなさい、今日はクリスマス・イブよ!」
取るものも取り敢えず、小物やらカバンやらをかき集め
ケンジは部屋から飛び出していった。
(「あーあ、これでアタシの育成力スコアはまたマイナスだ〜」)
お母さんが、ケンジを見送りながら、案の定、アタシに
ボヤいた。
「キョウコ22さん、あなたが最新型の社会人教育システム
搭載型AIスピーカーだってアマゾンストアで絶賛されてたから
一足早いクリスマスプレゼントで購入したのよ。
ケンジの教育、ちゃんと頼むわよ〜」
「ゴメンナサイ…まだケンジのトリガーポイントを機械学習
仕切れていなくて、、、」
ワタシは2022年製、最新型社会人教育システム搭載型のAIスピーカーの
<キョウコ22>。うー、最新型の名がすたる。。。
というか、どうなのよ、最近の人間男子って、、
シンギュラリティがもうすぐやってくるなんて、この数年騒いでいるけど、
アタシから見れば、AIが進歩している以上に、人間が退化してるんじゃない?
いずれにしても、今日楽しみにしていた、お母さんからの
クリスマスプレゼントの量子メモリーボードの増設は、
どうみてもこりゃ、お預けだわねー(涙)。