「知ってるか？

イブの日の夜、24日から25日に変わるジャスト0:00に鏡を覗き込むと、
自分の守護霊になっているサンタがこちらを覗き返すって。
そのサンタがにっこり微笑んでいれば、来年はいい年だし、
もし怒っていたり、泣いていたら、災難な一年になるらしい。」


同僚のKが、ランチで定食を掻き込みながら、そんな話をした。


「へー。じゃあ、今度のイブにやってみようかなあ。」


年の瀬の慌ただしい営業周りの合間の他愛のない会話の中だったので、
ほぼ受け流しつつ、俺はそう答えた。


クリスマス・イブ当日、仕事終わりに彼女と待ち合わせ、
毎年のごとくのディナーを食べながら、ふとこの話を思い出し、

「らしいぜ」

と話してみたら、思いのほか、彼女の食いつきが良い。


「えー、じゃあ、今夜、やってみようよ！

なんかさあ、ここのところお互い、冴えないじゃない。
ちょっと、サンタさんに、どうなの？って、聞いてみたいよねー。」


ということで、冗談半分で、俺の家に場を移し、
そのときを待つことになった。


買い込んだワインとツマミに手を出しつつ、二人でTVを観ながら
時間を潰す。

そうこうしているうちに、23:00を過ぎ、そのときが近づいてきた。


「ねぇ…、ほんとに、そんなことが起きるのかなぁ？」


卓上型の、B5サイズほどの置き鏡をテーブル上に据えて、
彼女は笑いながら言う。その目が、なぜか、笑っていない。


「どうだろうなー。まじだったら、明日、会社で超話題じゃん。
そうだ、証拠写真、撮ろうぜ！」


空元気で、俺は言う。
その実、胸のうちがなぜか異常にざわつく。

どうなんだろう…来年、きっといい年になるよな。。
でも、万が一、サンタが鬼の形相などしてたら、どうしよう。。
そもそも、二人で覗き込んだら、二人それぞれのサンタが出て来るんだろうか。
彼女のサンタが笑っていて、俺のが泣いていたら、どうなるんだ？
いや、それ以上に、逆のほうが気まずいぞ。なんて言って彼女を慰めようか…。

堂々巡りしているうちに、そのときが刻一刻と近づいて来る。


「鏡よ、鏡、世界で一番〜、って、あったね…。」


彼女が言う。

あと数分。

カウントダウン開始だ…。

思わず、二人で、息をのむ。

お互い、鏡と脇に置いたデジタル時計とを交互に見合わせる。

声が出ない。


いよいよだ。

あと１分。。


！


隣り合って鏡を見ていた彼女が、ふいに振り向き、
俺に被さり、キスをしてきた。

…。

24日から25日へと、時が超えていく。

そっと離れて、彼女が囁く。


「やっぱり、やだ。見たくない…。
自分たちのことは、自分たちで決めたい。」


俺は頷く。


「だよな。そうだよ、そんなの見る必要なかったよな！
だいたい、こんな都市伝説みたいなの、本当な訳ないし！」


妙な安堵と勇気が、俺と彼女を包み込む。

この他愛無ない数時間が、もしかしたら、俺たちへの最高の
クリスマスプレゼントだったのかも。


ほっと息をつく。

「さあ、俺たちの来年に、改めて乾杯しようか！」


グラスを手に取ろうとした、そのとき。

ふと目をやった鏡の中に

“グッド・ジョブ！”

と言わんがばかりに親指をこちらに向けて立てた
サンタの、赤白コスチュームの腕が、確かに見えた。