テツはさすがにここのところ、ハルには参っていた。

ハルは、K90型ヒューマノイドタイプの低学年向け家庭教師ロボットだ。
この秋に両親が離婚して母親がテツを引き取ることになった際に、
働きに出る母親の留守中の面倒を見るために購入された。

本来ならば、同じ家庭用でもG84型のほうが家事全般にはむいているのだが、
来年レベル４への進学を控えているテツを心配した母が、
「お前にいっぱいお勉強を教えてくれるほうがいいでしょう？
K90型だって、サブユニットで簡単なお料理やお掃除もできるって、説明書には書いているしね」と、
一方的に決めてしまったのだった。

確かに低学年教育の指導については、クラスでも成績の良いテツが音を上げるほど厳しく、また的確だった。
話し相手としても、なかなか博学。ユーモアもある。
ところが、家事については9歳のテツも呆れるくらい、下手だった。
離婚後外泊が多くなった母親にかわって、家事のほとんどを任せざるをえないのだが、
カレーをつくらせたときはその後３日間、下痢に悩まされなければならなかったし、
リビングの掃除をさせたときなど、ありとあらゆるガラスを割ってしまい、
さすがに激怒した母親はお仕置きにハルのメイン電源を半日オフにした。

その他小さなチョンボが続くと、その度にハルはパイロットアイをチカチカ点灯させながら
「ゴメンナ、ホントニ、ゴメンナ…」と哀しそうな電子音声で謝るのだが、
いい加減頭にきたテツはここ２週間、ハルがなにか話しかけてきても、ワザと無視し続けていた。

2091年12月24日。

MEGATOKYOに降り積もる大雪。
朝起きると、テツにとっては初めてのホワイトクリスマスだった。

昨夜、母から電話があった。

「ごめんね、テツ、明日の夜もお仕事で帰れそうもないの」

期待はしていなかったけど、やはり独りで過ごさなければならないとわかると、
気の強いテツもさすがに涙が出た。
今年はプレゼントもなしかぁ…。
スクールでの、友達のここ１週間の会話はすべて、今日家族とどう過ごすか、
プレゼントに何をお願いしたか、について一色だった。

「テツ、キョウノ、カエリ、ナンジ？」

出かけに、ハルが訊いてきた。

「お前一人で、雪だるまでも作ってろ！」

思わずカッとなって怒鳴りつけ、テツは家を出た。
ちょっと言い過ぎたかな…。
いまの自分を心配してくれるのはアイツだけなのに。
後ろめたさを感じながら、ハルの質問に答えたのは、そういえば２週間ぶりなのを、ふと思い出した。

結局、寂しそうに点滅していた目が気になって、授業終了後、友達との会話にも加わらず帰宅した。
玄関前に、うずたかく雪の山ができている。

な、なんだ？！

駆け寄ると、雪の山に埋もれて、ハルの目がピカピカ輝いている。

「だ、だいじょうぶか、ハル？！」

雪山から突き出されたハルの手のひらには、
不器用に作られた、小さな雪だるまがのっていた。

「オカエリ、テツ、メリー、クリスマス！」