ドサッ

あ痛たたた…。

着地に失敗して、したたか痛めた腰を擦りながら、
サンタクロース95世は、マントルピースの中からからだをねじりだす。

SEIKOの時計---一昨年のプレゼントの、残りだ---
を取りだして、暗闇に透かして見る。

午前5時48分。

もう、夜明けが近い。

怒ってるだろうな…なんといっても、今年は結婚して初めてのクリスマスなんだから。

カチッ

手探りで煙草を手に取り、ライターで火をつける。

婚約時代に妻に言われたこと---結婚したらサンタは辞めて---を、
この半年どれだけ考えあぐんだことか。
---あなたがサンタである限り、私たちにはクリスマスは来ないのよ---

父の94世からは「時代も時代だし、お前はカタギな道に進んでええんだぞ」と言われ、
彼も最初は継ぐ気はさらさらなかった。

しかし、腰痛に悩まされながらもプレゼント袋を担いで回り、
雪解けの季節まで床に就いたきりだった去年の父の姿を思い、
また、毎年寄せられる世界中の子供たちの手紙の山を見ると、
一族が果たしてきたこの伝統を、自分が絶やすわけにはいかない。

苦悩の末に、95世は妻に
「頑張って3時までには帰るから、起きて待っていてくれ」
という約束を取り付けて、結婚後初めてのクリスマスイブの夜、働きに出た。

最近の子供は寝るのが遅い。頑張ってみたものの、配り終えて戻れば、
やはり約束の時間には遥かに及ばず、もう夜も明ける頃だ。

いい加減、寝てるだろうな…彼は忍び足で寝室に向かう。

ジュボッ

突然、マッチを擦る音に続いて、部屋がほの明るくなる。

「メリークリスマス！お疲れさま」

妻が、ケーキの蝋燭に火を灯したのだった。

「わがまま言って、ごめんなさい。
やっぱり、世界中の子供たちが楽しみにしているサンタだもの。辞めたりしないで。
反対に、今年からは、私があなただけのサンタになってあげるわ。
さあ、目を閉じて。プレゼントをあげる！」

チュッ

95世サンタクロースが生まれて初めて貰ったクリスマスの贈り物は、
待ちくたびれてつまみ食いしたらしい、ケーキの生クリームの味がした。