2017.04.17
VOL.10 成功する経営者のマネジメント
外資系トップから大手日系メーカーのトップに転じた社長は、久しぶりの取材のとき、前職時代と同じように現場での撮影を好んだ。実際に商品を展開している店で、ジャンパーを着て品出しをするキャンペーンを全社で打ち出し、自ら率先して地方都市の店頭に立っていた。
社長自らが品出しに現れ、店舗側が驚いたのは、言うまでもない。そして、担当する営業チームも。もちろん、こうしたトップの取り組みを、意気に感じない現場はないだろう。前職時代もそうだったが、自ら現場に火を付ける活動で全社一丸となる空気感を作っていた。
少し基軸は異なるが、彼の前職時代、興味深い話を聞いた。入社間もなく、CMの試写があった。部屋に入ると、いきなり電気が消された。彼はちょっと待ってほしい、と言った。部屋を真っ暗にしてテレビCMを見る人はいるだろうか、と。
真っ暗にすれば当然、きれいに見える。しかし、普通の家庭で見ているようにやらないと評価などできない。そういう視点を忘れてはいけない。これも現場主義だ。
もうひとつ、印象に残っているのは、都市部で躍進している高級スーパーのトップ。彼は毎日のように、帰り際に自社のスーパーの店頭に顔を出していた。売れ残っていたものがあれば、自ら買ってみる。食べてみる。そして、微妙な修正を図るのだ。
何を前面に打ち出して売るかを決めるのは本社だが、彼はこう断言していた。
「業績が悪ければ、それはすべて本部の責任。お店のせいではない」
現場志向でありながらも、責任はあくまで経営が取る。それを曖昧にしないということ。スーパー全体が苦戦する中、順調に業績を伸ばしていた。
そしてマネジメントでもうひとつ、うまくいっている経営者から実感したのが、危機感と緊張感だった。あんなにうまくいっているのに、と思える会社ほど、強い危機感と緊張感をトップが持っていた。
未来のことは誰にもわからない。そして会社は、もっともっとよくしていくことができる。現状に甘んじてはいけない。素晴らしい実績を出している会社が、それほどまでの危機感を持っている。改めて凄さを思った。
成功する経営者、10の共通項をまとめさせていただいた。短時間の取材で何がわかるか、ということも言えるかもしれないが、短時間の取材だからこそ、見えてくるものもある。それを10の項目で語らせてもらった。
「なんだ、当たり前のことじゃないか」
と思われた方もいるかもしれない。たしかに、決して特別なことではない、と私も思う。しかし、特別でないことが、本当にちゃんとできているか、というのはまた、別の話である。
特別ではないからこそ、それを貫くことの難しさもある。当たり前のことをちゃんとやる。実はそれこそが、成功への近道。だが、簡単そうに見えて、これが難しい。
だからこそ、挑む意味がある。挑む価値がある。