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トークライブ“経営者の条件”開催レポート
VOL.5 優秀な人材がイノベーションの源泉――ワークスアプリケーションズ牧野CEOの人材戦略  2010年10月26日

人材を大切にする会社、あるいは「働きがいのある会社」とは、普通の会社と何が違うのか。会社を興して以来一貫して「人材獲得」にこだわり続けている経営者の考えを聞いた。


ユニークな人材獲得方法、そして「働きがいのある会社」としても注目を集める国産ERPパッケージベンダー、ワークスアプリケーションズ。その人材戦略の中心となっているのが代表取締役CEOの牧野正幸氏だ。

10月8日に開催された第5回トークライブ「経営者の条件」にゲストとしてその牧野氏が登場し、人材獲得方法の具体例から、その背景となっているポリシーに至るまで、人材にまつわるさまざまな話題について語った。その膨大なテーマのうち、主立った部分をかいつまんで紹介しよう。

「リクルーティングは直接部門」

ワークスアプリケーションズの設立は1996年。牧野氏と2名の共同経営者(代表取締役COOの阿部孝司氏と、代表取締役CTOの石川芳郎氏)が立ち上げた会社だ。同社は大規模ERPパッケージ「COMPANY」シリーズを開発、順次市場に送り込みラインアップを拡充し、国産ERPのリーダー的存在になっていった。特に人事給与パッケージ市場では8年連続国内シェア第1位(「2002年~2009年人事給与ソリューションのライセンス売上高シェア“エンドユーザ渡し価格ベース”出典:株式会社矢野経済研究所調べ」)と、ほかの追随を許さぬ高い支持を受ける。そして設立からわずか5年後の2001年、JASDAQ店頭上場を果たした。同社では「働きがいのある会社」調査において2010年に第1位を獲得するなど、その人材に関する取り組みが注目を集めている。

同社が求める人材像は、まさにベンチャーならではのものといえるだろう。

「大企業で優秀とされる人材は、社内外に蓄積された情報アーカイブをキャッチアップして、効率的に仕事を管理するのが得意な人。当社で求める人材は、それとは逆に前例を守らなくても構わないから、その代わりに何かを創造できる人。0から1を生み出せる人材だ」(牧野氏)

歴史ある組織であれば膨大な情報やノウハウが蓄積されているものだが、ベンチャーにはそれがない。だが、むしろイノベーションというのは、前例にとらわれない柔軟な発想から作り出されることが多い。日本でのITの常識を変えたい、という牧野氏の思いから設立されたワークスアプリケーションズにおいては、まさにそのイノベーションが重要ということになる。そして、知恵とは人間の頭脳から生まれるものだけに、新しい物事を創造できる優秀な人材こそが必要というわけだ。そのことを牧野氏は、「リクルーティングは直接部門」という言葉で示している。

「当社にとって人材獲得は一種の研究開発。さすがに上場企業なので計画的に実施しているが、そこには利益すべてを注ぎ込んでも構わないと思っているほど重要視している。」(牧野氏)

ソフトウェア開発、とりわけ業務アプリケーションの分野では、どれだけきめ細かく機能を作り込むか、そしてどれだけきめ細かくテストして品質を高めるか、が商品を強化する上で大きなポイントとなってくる。人材や時間が乏しければ、機能や品質を向上させていくことが難しい。逆にいえば、研究開発費の大半は開発スタッフの人件費や関連費用だ。それを考えれば、牧野氏の発言もうなずけよう。

とはいえ、牧野氏は人数を確保するのではなく、「少人数でもいいから優秀な人材を」という戦略とした。会社が成長したときに、初期の従業員が上位に残れるような人材であるべきだという考えからである。

「そのため、成長できる時期にあまり成長しなかった。お客様からの要望に対し、人手が足りず応えきれない部分も少なくなかったのだ。後に人が増えた分だけ仕事を増やしていったので、順調に成長していけた。人材にこだわらなければもっと伸びただろう。しかし伸びすぎて、リーマンショックの影響で潰れていたかもしれない」(牧野氏)

着実な成長を選んだワークスアプリケーションズだからこそ、逆にリーマンショックの影響で求人が減った今こそ優秀な人材を大量採用することが可能だったのだろう。

「協力会社の担当領域を社内に戻し、その分の予算を採用に回した。新卒300人、中途等を合わせて500人くらい採用した。売上高は横ばいだったが、良い1年だった」(牧野氏)

「自力で課題を解決させる」人材獲得方法

牧野氏は、CEOでありながらリクルーティング部門を率いる現場トップ的な立場でもある。このリクルーティング部門では、できるだけ優秀な人材を確保すべく、さまざまな施策を試してきた。

同社の求める優秀さとは、先に説明したように「何かを創造できる」ような優秀さだ。人材にイノベーションを求めているともいえるだろう。このような性質を見極めるには、一般的なペーパーテストや面接などでは力不足。

「例えば、『思考の柔軟さ』あるいは『地アタマの良さ』といった要素を見分けるにはどうしたらいいのか。見分け方は非常に難しい。いろいろやったし、やった上で結果を追跡したけど、ほとんどの方法で相関が見られていない」と牧野氏は言う。

そこで同社では、課題を与えて自力で解決させる方法を中心に据えている。自分で課題を突破できる能力があるかどうかを見極めるのだ。

「課題を与えて、教えない、質問も受け付けない。途中でレビューも行うが、間違えているかどうかだけを伝えるのみ。当然、みんな最初は怒る(笑)。けれども、それから先が違う。できる人は自分で課題に取り掛かる。やれる人材はやれる」(牧野氏)

全部自分で考えた上で、最後の最後にならないと答えが合っているかどうか分からないというのである。新卒入社を目指す多くの学生にとって初めての経験となるだろう。しかし、経営者やベンチャーの社員では、日々このような「答えのない」課題に取り組まねばならないのも事実であろう。

なお、この課題を最後まで到達できた者には、いつでも好きなタイミングで入社してきて構わないという「入社パス」が与えられる。入社パスの有効期間は5年または3年とされており、そのまま入社してくるのが約半数、残る半数のうち2~3割は、3~4年の間に入社してくるという。

人事制度は文化を維持するためのもの

牧野氏は、入社後の人材施策についても言及している。

「組織を作って回すような人間は、放っておいても評価される。なので私は評価しない。そういう人間が増えるとイノベーターが社内から減っていくから。イノベーションを起こす人は、必ず失敗もする。しかも連続して。それを、私は全力で守る」(牧野氏)

人事制度も、やはりイノベーションを重視した設計になっているのだ。イノベーションを起こせる文化を維持しようとしている。「『頭の柔らかさは』教えられない」(牧野氏)ものだけに、教育に関しては採用や文化ほど力を入れていないとのこと。

「当社の人事制度は文化を維持するためのもの。例えば評価は、同僚が行っている。会社が小さいうちからピラミッド構造を作ってしまうと中間にいる人が邪魔になって下から上が見えなくなってしまうので、社員数1000人まではフルフラットな組織体制としていた。こういった体制だったため評価制度が課題となり、『自分よりも優秀か、自分と同程度か、自分の方が優秀か』という評価を、創業者3人を除く全員が行っている」(牧野氏)

今ではワークスアプリケーションズも組織が階層化され、マネジャーやゼネラルマネジャーといった肩書きを持つ者もいるが、評価基準は基本的に変わっていないとのことだ。

「もちろん自分が他人を評価することに慣れている人などない。だから当初からいろいろあった。評価に問題があれば異常な値が出てくるので、それと分かる。その評価に関係した社員を呼んで話をして問題を見極め、全社朝礼などの場を使って是正してきた」(牧野氏)

なお、同社では「他を責めるな」(ワークスでは、「他責NG」と呼んでいる。)というのが原則だ。これも、やはり自ら課題を解決していく能力こそ重要と考えているからこそだ。

「他責NGはワークスの基本であり原点。ベンチャーなんて、そんなもんじゃないですか。資源もない、何もない中で課題を突破できるかどうかが重要なのです。」(牧野氏)

去る者は追わず、「カムバックパス」を

もちろん、さまざまな理由からワークスアプリケーションズを去ろうとする社員もいる。そうした人材流出の対応も、同社はユニークだ。退職する人のうち、上司が優秀だと思う者には「カムバックパス」を与える制度があるのだという。

「辞めたいという人間を無理に引き止めるのではなく、戻ってきてくれるとありがたい、という気持ちを伝える。それで戻ってくる人は他社との違いが分かっているし、二度目はないという覚悟ができている」(牧野氏)

また、働く女性へのケアも充実している。例えば出産を機に休職した女性が職場復帰をしようとすると、夫や両親、など周囲が、子育てに専念すべきだといった理由から反対することも多い。

「たいてい周囲が反対するのが、日本の社会。そこで当社では、出産後に職場復帰してきた女性に相当額の特別ボーナスを出すようにした。これは本人の復帰したい意欲を後押しするというより、親たちの説得材料になっている。実際、親たちも『それだけくれるなら戻りなさい』と言ってくるらしい。これは大正解(笑)」(牧野氏)

加えて、育児と仕事の両立が容易になるよう、子供が小学校を卒業するまでの時短勤務も認めているという。

コストの高い日本のITを世界水準にしたい

牧野氏らがワークスアプリケーションズを興したのは、世界的な水準に比べて日本のITコストが高いという現実を変えたい、との思いからだ。

「日本でも、ITコストを世界と同じようなレベルにしたい」と牧野氏は言う。

実際、かつて大手企業の基幹系などはスクラッチ開発が当たり前だった。それを低コスト、かつ効率的に利用できるようにと作られているのがERPである。

「ERPの主要ベンダーといえば欧米の大手2社。これらが世界市場を握っており、対抗できるERPベンダーは日本にはいなかった。だから、日本にも彼らに匹敵するERPベンダーがあるべきだと考え、会社を興した」(牧野氏)

当然、目指すのは主要ベンダーの座だ。今後、ワークスアプリケーションズが目指すポジションは、「少なくとも世界3位」(牧野氏)だという。

「私は、少なくともあと10年は経営をやるつもり。その間には、世界ナンバースリーには入っていたいと考えている。ワークスアプリケーションズがなくなったとしたら、困るのは日本の大企業各社。なので、ベンチャーからメガベンチャーへと成長させていく必要がある」(牧野氏)

牧野氏にとって、ワークスアプリケーションズの成長は、自社のためだけではない。顧客企業、ひいては日本経済のために役立つものという考えが、その根底に流れている。

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