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トークライブ“経営者の条件”開催レポート
VOL.10「自分のやりたい技術を使って消費者を喜ばせたいだけ。モノづくりの原点は好きであること――ボーズ日本法人 元代表取締役・J.TESORI 代表取締役の栗山氏  2011年12月20日

モノ作りにおいて、顧客の声を聞いたり綿密なマーケティングを行うのは、必ずしも正しいとは限らないのではないか。むしろ一人のカリスマの感覚で作り上げた製品が大ヒットを生む場合もある。

10月6日、トークライブ「経営者の条件」第12回(主催:経営者JP、協力:アイティメディア)が開催された。ゲストはJ.TESORI 代表取締役の栗山譲二氏、ボーズ日本法人の元代表取締役だ。少年時代から音楽が好きで、大学では音響心理学を学び自分自身の感覚を貫き、自らのこだわりを商品化しユーザーに伝えていく、そんな音響一筋の人生を歩み続けている。

音楽への憧れから音響エンジニアへのキャリアを歩む

栗山氏が音響機器業界への道を歩んだのは、幼少時からの音楽への憧れによるものだったという。

「幼少のころ福岡の炭坑町に生まれ育った。そのころの炭坑町は娯楽は少なく、唯一音楽ホールがありしばしば演奏会をのぞき見するうちに"音楽は友達"という感覚に繋がっていったのだと思う」(栗山氏)

音楽家への道を進みそうな生い立ちだが、氏の場合は少し違った。小学校の頃に捨てられていたレコードプレーヤーとソノシートを拾い、「なぜ音が出てくるのかな」と、その仕組みを探求するなどしていたのだ。こうした音の出る仕組みへの探求心が、音響エンジニアの道へ誘ったということになるのだろう。

大学では聴覚心理学を専攻し、さらに音楽に近い仕事をしたいと考え、音響機器メーカーへ就職した。といっても、当時勃興しつつあったコンシューマー向けのメーカーではなく、業務用機器を専門とするメーカーだった。

ところが入社してみれば、そこは「音楽のおの字もない」会社。業務用は業務用でも、非常用音響システムのメーカーだったのだ。そこで音楽に関係する仕事をしたいと社長に提案、音楽ホールなどで使う音響システムの事業を立ち上げることになった。

「当時の音響エンジニアといえば、回路や基板に取り組む人たちばかり。その中で信号処理ばかりやっていたので目立ったのだろう、デジタルミキサーを開発し、音楽ホールなどへ販売する事業に取り組むことができた」(栗山氏)

当時としては珍しいデジタル音響システムだけに、営業マンも知識が追いつかず売り込みに行けないほどだったという。そこで栗山氏は自ら営業も行い、NHKの音声卓やウイーン国立歌劇場での採用も勝ち取った。そして事業全体の経営も任されるようになるがその道は平たんではなかった。

結局、会社はプロフェッショナルオーディオ分野から監視カメラなどの事業にシフトすることになり退職した。

ボーズでエンジニアから経営の道へ

ホール向け音響システムでは後発ながら市場に食い込んでいった栗山氏の活躍は、業界の中でも目立ったのだろう。かつての競合メーカーからの誘いも多かったという。その誘いの中から選んだ転職先がボーズだった。

デジタルミキサーでDSP(Digital Signal Processor)を扱っていたことから目をかけられ、ボーズのデジタル強化のためにと請われ「テクニカルアドバイザー」という役職で入社した。

2004年、栗山氏は日本法人の役員となり、2006年には副社長、そして2008年には代表取締役に就任した。この間にも製品の企画や開発に携わり続け、またマーケティングにも深く関わるようになっていった。

直販スタイルの重要性と、モノ作りの意識

音質にこだわる高級オーディオ製品は、決して安い買い物ではない。それゆえ熱心なファン層を維持し、彼らのクチコミを期待する、そんなマーケティング手法が重要だ。栗山氏も、やはり安くない製品であるという点を踏まえて、ダイレクトショップの販売スタッフの教育に力を注いだ。

もちろん、それは品質に自信があってこそできることだろう。目標とする技術をモノにするため、しばしば長い年月をかけて研究開発を行う必要がある。ボーズでの一例が、2000年代になって発売したノイズキャンセリングヘッドホン。アイデアは昔からあったが、それを一般向け商品として売り出せるようになるまでには、20年以上の年月を費やしている。

上場企業であれば、これほど長期間に及ぶ研究開発投資を行う経営者は株主から厳しく追及されるに違いない。上場していないボーズでも、他の取締役からの異論はあるはずだ。創業者であり、強いカリスマ性を持つボーズ博士だからこそ、そうした反発を抑えて地道に研究を進めることができたのではないだろうか。

マーケティングは重要か、「客の声」は聞くべき

顧客と正面から向き合う直販のスタイルは、顧客のニーズを自社で直接取り入れるのに役立つはずだ。しかし栗山氏は、あまりマーケッターのレポートや「顧客の声」に頼らない方が良いという。

「わたしはどんな音が好まれるのかという点よりも、こだわって作った音を世間の何割かは好んでくれる人がいるという点を重要視している。たくさんの現場を経験し、音楽の作り方の方向性なども見てきた音楽好きじゃないと、音響のモノ作りをしてはいけないのではないか。わたしは"Wow!"という表現を好んで使う。小さいけどびっくりする、感動するような音、わたしは、それを目指し続けている」(栗山氏)

ちなみに、栗山氏はビジネススクールが嫌いだという。「ビジネススクールは、CEOになるにはどのように利益を上げたらいいのか、そういったことばかり教えている。しかし、どうやって技術に投資するか、辛抱強く社員を育てるには、といったことは教えない」というのが、その理由だそうだ。ビジネススクールで学ぶ内容もさることながら、技術やモノ作りに対する姿勢が重要だという認識なのだろう。最も重要なのは、音楽好きの人が好きな音響の分野を突き詰めること、と言えるのではないか。好きだからこそ、心の底からこだわれる。モノ作りの原点は、そういったこだわりにあるのかもしれない。

栗山氏は現在、音響製品の企画から開発までのコンサルティングや製品開発を手掛ける会社を経営している。「自分の技術で出したいモノがある」というのが、独立した理由の一つだ。

「わたしは、自分でルールを決めたいと考えている。多くの企業では、競争ルールがあると決めつけて製品を作っているが、その決めつけによって自分で自分たちの首を絞めていないだろうか。自身のコアコンピタンスを辛抱強く育て、感動して購入してもらえるようにしていきたい。」

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