
海外勢に後れを取った日本のテクノロジー産業 起死回生のシナリオとは
少子高齢化による労働力減少や医療費の爆発的増加などいつからか、日本は課題先進国といわれるようになった。しかしこの課題を解決することで世界の課題解決を加速し、製造業復活の糸口も見えてくるのでは。
スマホの販売でついに世界首位に躍り出たサムスン、偉大な指導者を失ってもなお圧倒的な存在感を保ち続けるアップル、世界最大のクラウドプロバイダーとして他社の追随を許さないグーグル。世界を見渡せばテクノロジー、IT産業における各社の戦いはまさに群雄割拠、その戦いは熾烈を極めるがエンドユーザーにとって魅力的なサービスも日々創り出されている。
一方で日本勢はどうか。かつてジャパン・アズ・ナンバーワンといわれ、世界を席巻した時代の勢いは見る影もない。多くの日本製造業はハード売りで儲ける時代からサービスで儲ける時代へのシフトに苦慮し、新たなビジネスモデルの構築に手間取っている。
この様な状況に陥った日本企業が継続的な成長のために必ず乗り越えなければならない課題がいくつかある。
(1)顧客価値を磨き込めない
機能性や技術面のアドバンテージを武器に過去数十年も戦ってきた日本企業。技術力は多くの分野でずば抜けているが、エンドユーザーが何を求めているのかを商品開発に落し込むことについては、海外勢、特に韓国企業の後塵を拝している。顧客視点を徹底的に磨き上げ、その半歩先を行くサービス・プロダクトを開発するために、日本企業にフィットする顧客経験の磨き上げを担う組織や機能の充実化が必要である。
(2)生態系を築けない
iPhoneやiPod touch、iPadなど、アップルの製品は優れたデザイン性と自然なユーザーインターフェスでユーザーの裾野を拡大した。さらに、多くの開発者が単一プラットフォーム上で様々なアプリケーションを提供するApp Store、これがユーザー数の爆発的な増加と売上げの拡大に大きく貢献した事もまた事実である。多くの日本企業では、例えば自動車業界や金融業界内など、特定業界における垂直統合型の生態系構築は比較的得意としてきた分野である一方で、業界横断でのアライアンス構築やプラットフォームの形成は目立った実績はない。たとえ大企業であっても、すべてのサービスを自前で提供するのは限界があり、業界を横断する他社との協業により生態系を築かねば、今後生き残っていくことはできない。
(3)世界展開できない
意に反してガラパゴス化を突き進めてしまった日本メーカーの携帯電話。一方で海外シェアを猛烈な勢いで高めていくサムスンやLGなどの韓国勢。両者の一番の違いは「グローカライズへの取り組み」にある。「日本の普及品=新興国の高級品」という誤った理解のもと、眼前のユーザーを取り込むことばかりに躍起になってきた日本企業と、世界各国にデザインセンターを設け、現地の文化や歴史的背景も把握した上でそれを製品開発に反映しようとする韓国企業。彼らと対等に戦うためには模倣では無意味。「日本流グローカライズ手法」の確立が急務である。
(4)スピードが遅い
前述の生態系の議論では、マーケット全体をいかに早くプラットフォーマーとして捉えられるか否かが勝敗の行方を握る重要なカギである。生態系を作り上げた者と、あとからそこに参画する者では、得られる旨みに雲泥の差がある。また、単一のサービス・プロダクトを取ってみても社内の意見調整に手間取り、意思決定に数か月を要している間に海外勢は早々に製品開発と市場への投入を進め、気付いたときは後の祭り、といった状況がいくつかの製品分野で過去に起こっている。簡易型カーナビの開発に出遅れることにより、グローバルマーケットでのポジションを失っていった日本のカーナビメーカーはその好例である。
(5)人材不足
上記4つの課題、つまるところいずれも実現可能な人材の有無にかかっているといえる。伝統的に多くの日本企業ではOJTの名のもと、現場で人を育てることが原則とされてきた。しかしながら現場だけでは身に付かない尖がったスキルを持った、いわば異色人材の育成には、OJTとは別に体系的な育成制度の構築が必須である。こうした人材育成の営みと同時に、上記4つの活動を強化していくことでわれわれ日本企業にも、テクノロジーをレバレッジすることによる次の時代での勝機が見えてくる。
拙書「日本製造業の戦略」では、上記5つの課題に対する具体的な打ち手の方向性を示すと同時に、前半部分では2015年という比較的近い将来における日本製造業の考えられる姿を成功/失敗の2パターンのシナリオに落し込み描いている。具体的には、パーソナル領域(コンシューマー向け)、ビジネス領域(法人ユーザー向け)、社会システム領域(医療・健康、食・農業、交通)の3つの領域において、日本企業がグローバルマーケットにおけるリーダーとなるケースと、海外勢にマーケットリーダーの地位を奪われ続けているケースそれぞれについて、想定される状況を可能な限り具体的にイメージし書き下ろしたつもりである。
いつからか、日本は課題先進国といわれるようになった。少子高齢化による労働力減少や医療費の爆発的増加。日本型の課題解決アプローチを早急に確立し世界に展開することが求められている。いわば日本型課題解決アプローチの中に世界が抱える課題への取り組みを加速するヒントがあり、同時に日本製造業復活の糸口もそこにあると本書著者陣は考えている。
しかしながら残された時間は少ない。われわれは正念場に来ている。この危機感をしっかりと共有し、そして日本製造業の完全なる復活を夢見るビジネスマンや、次の時代を担う学生の皆さまに、ぜひ本書を手に取っていただきたい。