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ITmediaエグゼクティブ【経営者.jp企画提供】連載
ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術!
VOL.87 齊藤正明さん  2011年09月15日

マグロ船の船長は、海賊のボスのように怖い人なのか?! 

「マグロ船は過酷だ」。そんなウワサは本当なのか。水産食品の技術者が、上司の思いつきで乗せられてしまったマグロ船。でも釣った魚は大きかった。

「マグロ船は過酷だ」。そんなウワサは昔からまことしやかに言われていると思います。わたしはかつて、水産食品に関する技術者をしていたのですが、上司の思いつきでマグロ船に乗せられてしまったという過去があります。実際マグロ船に乗せられたことで、それはウワサなどではなく本当であることを実感しました。

1日のはじまりは朝6時で、釣り針を海に流しはじめます。この釣り針は、長~い1本のロープに2千本も付いています。ちなみに、“長~い一本のロープ”がどれくらい長いかというと、なんと、「東京駅」から「富士山」くらいの距離にあたる、約100キロメートルもあります。これだけ長いロープですから、流し終わるのは6時間後の12時近くになります。

このあとマグロが釣り針にかかるのを待つため、3時間停泊して静かにしています。この3時間は、漁師たちにとって貴重な睡眠時間にもなっています。15時になったら流したロープを巻き上げる作業を行うのですが、すべてが機械化されているわけではないので、かなりの部分を人力によって重いロープや浮き玉など、仕掛け一式を巻き上げなければなりません。

この巻き上げている途中途中にマグロが揚がるのですが、無事、ロープを回収し終わるのが、なんと12時間後の翌朝3時です。このあと、シャワーを浴びたりして、わずか2時間ほど睡眠をとり、また朝6時からのロープを流す作業に備えます。

つまりマグロ船の漁師たちの睡眠時間は、最大でも5時間程度で、実働時間だけで17時間も体をハードに使って働いているのです。友人に元イワシ漁の漁船で働いていた人がいて、彼に「マグロ船の漁師ってどう見られているの? 」とたずねたら、「漁師のなかでも、マグロ(漁)は過酷すぎて別格だ」と言われました。

それくらい肉体を酷使する仕事のせいか、マグロ船ではカロリーをたくさん摂る必要があるらしく、リポビタンDのような栄養ドリンクやジュース類など1日7本飲む人も珍しくありませんでした。そんなハードな長時間にわたる肉体労働は、危険との隣り合わせでもあり、例えば次のような労働災害があります。

サメに噛まれる

猛毒のトゲを持つエイに刺されて死亡する

足にロープがからまって、サメがいる海に転落する

太い釣り針が手に刺さり、仕掛けごと海に投げ出される

なので船長は、若手の漁師がアブナイことをしていないか、常に気を配っていなければなりません。

しかし、実働時間である17時間も船長にジィ~ッと見られていたら、若手にとっては監視以外の何者でもなく、狭い船内はストレスが充満し、それによって人間関係がこじれて作業効率が落ちたり、労働災害が起きてしまうのです。こうした環境なので、船長は「若ぇ子たちがアブナイことをしちょらんかいのぉ」と、ちゃんと見守りつつも、かといって、監視にはならないようにしないといけないという、一見矛盾したことをしないといけないのです。

トップクラスの売り上げはチームワークから

当時、日本には19~70トン級のマグロ船は約500隻あったのですが、わたしが乗せられた船は、そのなかでも毎年トップクラスの売上を誇る船で、それを裏付けるように非常にチームワークよく仕事をして、効率よくマグロを捕っていたのです。そこで船長に、「若手の漁師たちを見ているポイントってどこですか? 」と聞いたときには次のように教えてくれました。

  「昨日はできなかったけど、今日できたところ見よるかいのぉ」

 「そんな小さい差なんて、どうしたら分かるんですか? 」

  「え~、こんめぇことでええから、3つとか4つとか教えてあげんのよ。“こげーするとうまくできるど”とか、“そこに足を置くとアブねぇど”とか」

  「翌日、教えてあげたことができたところがあれば、褒めてあげるんですか?」

  「そげーじゃ。 1個でもできるようになったところがあれば、“できるようになったの”と声をかけてやんのよ」

  「じゃあ、昨日教えて、次の日になってもできていなかった部分はどうするんですか? 」

  「よっぽどアブねぇことでなきゃ、ほたくっちょく」

  「ええ~、放置しちゃうんですか?」

  「3つ教えたなかで、できるようになりよった1つをちゃんと気づいて褒めてやれば、言われた子は、『あ、船長はできちょらん残りの2つも知りよるな』っちゅーように、言わなくても分かるんど」

  「会社だとつい、できるようになった部分には何にも言わないで、できていないところばかりを“何回言えば分かるんだ? ”と指摘しがちなんです」

  「そげーしよると、若ぇ子は不満をためて言うこと聞かんようになるけぇのぉ」

  「監視にならないようにしつつ、若手を見るためにはできたところを見ておくことが大事なんですね」

  「ま~でも、危険なことについては、ちゃんと言わねぇといけねぇけんの。 “できたところを見る”っちゅーより、“できたところと、できてないところの両面を見ちょく”ちゅー感じかいの」   

多くの会社も似たり寄ったりかもしれませんが、わたしが当時勤務していた会社の上司は、できているところはできて当たり前、できていないところは、「お前、なんでそんなこともできねーんだ? オレにいちいちそんなことを言わせるなよ。もういいから1回死ね! 」とモーレツに怒るため、わたしを含めみんなが働く意欲をなくしていました。

できていないところばかりをアラ探しをするがごとくジィ~ッと見てしまうと、わたしたち部下は、「絶対にミスを冒すまい」と考えて無難なことしかやらなくなり、気付くと仕事のやり方が時代遅れになってしまったり、非効率だとは分かっていても、今のやりかたを変えようとする人はいなくなり、部署の活気も下火になり、会話もドンドン減っていったのです。

部下のダメなところをキチンと指導してあげることは必要ですが、それだけだと指摘魔になり部下の心は離れてしまいます。良い面と悪い面の両面を指摘してあげることで、部下は、「この上司は、わたしを正しく理解してくれている」という信頼感が生まれ、だからこそ上司の言うことを聞くようになったり、部署にまとまりが出てくるのです。

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