
「当たり前」「思い込み」を正しく疑えるか 大事なものは暗闇の中にあるかもしれない
問題や課題が顕在化したときそれまでの仕組みを根本的に壊す勇気が持てず、現状に修正を加えることから始めようと思いがちである。しかしここから企業の競争優位が生まれるだろうか。
「創造的破壊」とは、オーストリアの経済学者・シュンペーター氏によって提唱された言葉です。もともとは、非効率な古いものは効率的な新しいものによって駆逐されていくという経済活動における新陳代謝のプロセスを説明するものでしたが、現代では広く、旧弊を打破して新しいものを生む出す行動、を指して使われることが多いようです。
「破壊と創造の人事」は、この「創造的破壊」が今の日本企業の人事に求められているのではないか、という問題提起の意味をこめたタイトルです。
何か問題や課題が顕在化したときに、それまでうまくいっていた仕組みを根本的に壊す勇気が持てず、まずは現状に少し修正を加えることから始めようと思いがちです。しかし、例えば人事の分野で言えば、少子化・多様化・グローバル化など、これまで直面してこなかった緊急の課題が山積みになっていくなか、昔のやり方にむやみに固執し続けてしまうと、企業力を低めることはあっても、その競争優位を生み出すことはないと自覚しなくてはなりません。
一方で、「これからの時代は○○だ! 」「△△△を取り入れないと取り残される」と、世間で流行っている仕組みや考え方を無批判に取り入れ、それまで培ってきた自分たちの良さをあっさりと「破壊」してしまうことは、決して賢い態度ではありません。
真の創造をするには、破壊的行動を先行させる必要があり、創造的な破壊をするためには、破壊すべき対象(同時に、すべきではない対象)を冷静に把握しておく必要があるということでしょう。
そのためには、今自分が直面している課題について、まずは「ゼロベース」で考えてみるクセをつけることが大事だと考えています。「当たり前だと思っている」もしくは「これがなくなるなんて考えられない! 」ということを、頭の中でゼロにし、そのとき起こりうる状況を真剣に想像してみる。もちろん、そのときには「課題を解決してどこにたどり着きたいのか」を常に手放さないように。すると、ゼロにしても全く問題ないことに驚くこともありますし、「当たり前」の中にあった良さの本質が浮き上がってくることもあります。
こうした考え方を実践していると、分かっているつもりでも、自分が持ってしまっている「当たり前」や「思い込み」をゼロにして考えてみることは決して簡単ではないことに気付かされます。
ある人の犬が、突然水を飲まなくなったことがありました。犬小屋の前に置いてある水入れかがほとんど減らないのです。そんなことが数日続いたので、体の具合が悪いのだろうと思い、獣医に連れていくことに。しかし、内診をしてもらっても、特に問題がみつかりません。おそらく軽く脱水症状になりかけている犬はぐったりとしています。
過去の成功が未来の成功の妨げになっていないか
そこで獣医さんが横たわった犬の口に水の入ったボールを近づけると、狂ったように飲むではありませんか! それを見た獣医さんは、「もしかしたら」と背骨のあたりの確認を始めました。そこで分かったのは、「背骨に椎間板ヘルニアが出ている可能性が高い……」。
つまりこの犬は、内臓に問題があって水を飲まなかったのではなく、背中が痛くてかがみ込むことが困難なため、水を飲むことができなかった、ということです。
「水を飲まない」=「内臓に問題がある」「内科的に体の具合が悪い」という思い込みが、背中に椎間板ヘルニアがあるという問題の発見を遅らせてしまったわけです。それに気がつくことができず、内疾患の治療ばかりしていたら、本当の原因をどんどん悪化させていったことでしょう。
今回、「破壊と創造の人事」の中でも引用しましたが、私が事あるごとに思い出すようにしている寓話があります。
ジョン・W・ボーウドロウ教授が、2007年の「HR Technology」のクロージング講演で「人事部門がデータを活用できていないと言われるのは、「量」の問題ではなく、経営・マネジメントが求めていることに応えられていないという「質」の問題である」と指摘したときに、引用したものです。
この寓話はあまりにナンセンスで笑い話にもならないと思ったかもしれませんが、人事部門のデータ活用に限らず、通常の行動でも気がつかないうちに光が当たっているところばかりを見ていて他の暗闇に光を当てる努力をしていないのではないか、と常に振り返るようにしています。
大事なものは暗闇の中にあるらしいとなんとなく気がついているのに、「手に入れやすい」「分かりやすい」「一般的にそう言われている」といった理由から、光の当たっている部分だけを探っていないか? 「大切なものは、暗闇のなかにあるかもしれないじゃないか」という視点が必要ではないか? その暗闇に光を当てる努力をするべきではないか、と。
ここまでは、仕事術ということで、参考にしてもらえれば幸いです。最後に、そんな考え方を持ちながら、今年の6月に出版した本についての説明を少し。
これまで、日本企業は、モノ・カネの分野に科学的な考え方を取り入れ、グローバル化を果たし、多様化にも対応してきました。しかし、残念ながらヒトの分野はまだまだ「勘と経験」に頼り、グローバル化・多様化は他国から遅れをとっていることは否めません。逆に考えればヒトの分野で抜きんでることが、企業の競争優位性を上げる可能性が高いということです。企業の人事に直接関わっていない人でも企業で働くかぎり、何らかの形での「人材のマネジメント」からは逃れられません。企業の経営に興味がある、関わっているという人には必ず何らかにヒントがあると思います。是非、ご一読ください。