
オフ・ビジネスでも自分磨きを
「常在戦場(じょうざいせんじょう)」という言葉がある。江戸時代、長岡藩の藩訓として伝わったもので、同藩の『参州(さんしゅう)牛(うし)久保(くぼ)之(の)壁書(かべがき)』という書物で説かれた言葉とされている。日本海軍の山本五十六連合艦隊司令長官が座右の銘としたことでも知られる。
意味はもちろん、「トップリーダーたるもの、いつでもどこでも平時でも、戦闘に臨んでいるという心構えでいなければならない」ということだ。社長という立場にあるのなら、やはり「常在戦場」の心構えで自分磨きを続けなければならない。
「経営技術」の勉強法については前述したが、オフ・ビジネスでは「経営哲学」の向上に努めるべきだろう。全社員を率いて奮励督励できるような「人間力」の向上をめざそう。社長は最終的には社員から尊敬されなければならない。そのためには「人間力」が必要である。
スティーブ・ジョブスは社員に対する接し方が時に横暴で、専制君主のように振る舞った。商品開発を目標期日に合わせるために徹夜仕事を強いたこともしばしばだったという。それにもかかわらず、彼は部下たちに尊敬され、心酔されていた。彼の死去に対するアップル社従業員の弔意を見ればそれがよくわかる。そのような、社員を惹きつける「経営哲学」や「人間力」を身につけ、高めるには、どういった勉強をすればよいのだろうか。
①先人経営者から学ぶ
ビジネス書のベストセラーには新興企業や新しい業態での成功経営者の情報が多く、目新しさから、つい目がいきがちになる。しかし社長が学ぶべきは、やはり実績を残して老成した大経営者の言葉だろう。さしあたって、次のような経営者や学者の本から学びたい。
・松下幸之助
・小倉昌男
・金川千尋
・柳井正
・ジャック・ウェルチ
・ピーター・ドラッカー
・ハロルド・ジェニーン
②胆識を磨く
新将命氏は「経営者には知識・見識を越えた胆識が必要になる」と説いている。
同氏によれば、「知識とは単に情報の類を取り集めること」、「見識とは知識に自分の考え方を加えたもの」のことだ。そして「胆識とは、見識の上に立って、決断を下し断行できる力」だという。
それではどうしたら「胆識」を獲得し、磨き上げることができるのか。それは、社長自らの価値観を磨き上げることによる。いったい自分にとって(つまり会社にとって)どんなことが重要で、どんなことがそうでないのか。実現したいこと、保持したいこと、残したいことはどんなことで、それらの優先順位は何なのか。
社長の中でこれらの優先順位(つまり価値観)が醸成されていれば、ビジネスでの決断に対して迷いがなくなっていく。「大事なものは何なのか」を求め続けていくと、不思議なことに経営もうまくいくのである。
③コンディションを整え、外の刺激を求めよう
社外では「常在戦場」の心構えでいたい。現場では逆に、いつでも「平常心」でいたい。会社においては社長の指揮、そして意思決定が決定的に重要だからだ。
「平常心」のレベルを高めるにはどうしたらよいか。まずは心身のコンディションづくりに励みたい。これも広い意味で、社長の勉強である。
心のコンディションを保ち、胆識を養うには読書の習慣が不可欠である。ビジネス書や経営者の類の読書については前に述べたが、人間力を養うには、東西の古典といわれる書物に親しむことだ。文学でもよいし、社会学系の書物でもよい。時間という水に洗われて残った、古典といわれるスタンダードには必ず価値があり、人間のグレードを上げていくのに役立つ。
体のコンディションを維持・向上させることも社長には重要だ。「ゴルフを月一度程度」では不足だろう。ジム・ワークをしたり、ジョギング、テニス、水泳、自転車など運動する習慣をつくろう。フィジカル面でもエリートにならなければ、社長業という激務を続けていくのは難しい。
体を動かす習慣をつけ、快眠を心がける。かかりつけ医師をつくり、その先生に会うことを少なくとも隔月の習慣としたい。
そして、このように心身のコンディションを整えつつ、外の業界やビジネス以外の集まりや交遊を求めに出かけてみよう。自分の会社や業界だけの交流では、その枠を越えた成長は期待できない。積極的に外の刺激を求めにいくことをお勧めする。
頭、心、体……これらを三位一体として勉強し、死ぬまで自分自身の向上を心がけて生きることが、経営者には求められているのである。